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今日から別荘(うち)に泊まれ

ー続き

山本は政治専門の写真家ではなかった。

首相官邸直属のカメラマンではない。

南米アマゾン河流域のインディオを撮ったり、マイナス60度のシベリアで1ヶ月もファインダーから酷寒の地を覗き、アフリカや北朝鮮など世界の国々を歩くフォトルポライターだった。

その彼が角栄に取り憑かれたのは、能力がなくて、小さな正義を振りかざす善人と、巨悪と評されながら強力なリーダーシップを発揮する人間と、どちらが国家、国民にとって本当に有用なのか。


後者だとすれば、田中角栄という政治家の心まで垣間見られる写真を撮るのが、同時代を目撃したカメラマンの仕事ではないか。


この認識と使命感が山本を執拗な角栄取材に駆り立てたダイナモだった。意志あれば道あり。堅固な城の扉が開かれた。

田中は昭和49年12月、2年5ヶ月に及ぶ総理の椅子を降りてから、好きなゴルフに熱中した。

刑事被告人になった後、さらに拍車がかかった。足腰を鍛えて、いつ果てるとも知れぬ裁判、法廷闘争に勝ち抜かなくてはならない。

毎年の8月、軽井沢の山荘に1ヶ月間も寝泊まりして、土砂降りの雨の日を除き、早朝7時には堤義明が経営する72ゴルフ場でスタートした。

親方のゴルフは常識を超えている。1日最低2ラウンド。4ラウンドを1日でこなした記録もある。

普通の人はハーフのプレイに2時間前後をかける。田中は1時間。走るように歩いた。

ゴルフは上手、下手で多少違うが、普通1ラウンドで8千メートルから1万メートルは歩く。ボールは真っ直ぐ飛ぶとは限らない。

プロでも林や谷に打ち込むことがある。素人はジグザグコースで歩くのが当たり前だ。角栄は最盛期の公式ハンデ16。上手なほうだった。

夏の軽井沢に親方目当てのゴマすり連中、田中軍団の若い政治家たちが続々と来た。しかし、8年9年と経って櫛の歯を挽くように数が減っていった。

腕自慢の人たちは大将と1ラウンドのプレイをして、ゆっくり風呂で汗を流し、夜は田中が贔屓にしていた赤坂飯店でうまい料理にありつける。

誠心誠意、ゴマをすり、角栄の覚えをよくして帰りたい。ところが、いざ本場になると2~3ラウンドである。ほとんどの人は足を引きずって家路についた。

田中が倒れる前年の昭和59年夏は、逃げ回っていた早坂に召集令状が届いた。一緒に遊んでくれるプレイヤーが激減したからである。

軽井沢の田中山荘は260年もの間、日本の総大将だった徳川家の末裔から譲り受けた宏大な邸だが、内実は山賊屋敷と変わらなかった。

お手伝いは娘夫婦の別荘に徴用されて、女手が一人もいない。メシを山荘で食べる場合、角栄の従弟、運転手、警視庁のSP、早坂の4人が交代で用意し、跡片付けもした。

掃除、洗濯もまたしかり。これが当時キングメーカーと言われた角栄さんの別荘暮らしの内幕である。

盛夏の某日、朝露を踏んで田中と早坂がシルバーコースをスタートした。午前7時。前には1組も出ていない。後続は2組も空けている。

同行者はキャデイ二人、警視庁の特別警護官一人だけ、あとはポロシャツ姿の若い長野県警のお巡りさんの6人が木の間隠れについてくる。

早坂がチョンボしない限り無人の野を行くがごとし。これに前日の夜から軽井沢に投宿した山本カメラマンが合流した。

山本は前進する田中と早坂の前や横から、後ろ向きになってシャッターを押す。角栄の歩く速さは100メートル20秒前後のスピードだ。

これを重いカメラを抱えて撮り続けるのは容易ではない。彼は足の生爪を3枚も剥がした。

田中は帰りがけの車に乗り込む前、ゴルフ場の中島総支配人やキャデイたちに混じって見送る山本のズック靴の爪先が、黒く滲んでいるのに目を停めた。

血だな、山ちゃん、今日から別荘(うち)に泊まれ。

田中山荘に寝泊まりしたのはファミリー、スタッフ以外で山本皓一しかいない。

夜の闇が近づいた頃、カメラ道具をどっさり担いだ「怪我人」がやってきた。風呂上がりでパンツ一枚、団扇をパタパタ使っている居間の田中に山本が挨拶しようとしたら主人が言った。

ここは合宿だ、挨拶はなしだ。傷の手当てをして、直ぐに風呂に入れ。今晩はすき焼きだ。みんなで食おう。

別荘では二階の12畳間に田中が寝る。一部屋空けて早坂、SPたちは階下に陣取った。山本には俺の向かいの部屋で寝かせてやれ。

鶴の一声で山荘の住人になった山本は、別荘暮らしのカットを次々にフィルムに収めていった。撮れないのは闇将軍の素っ裸。風呂に入る前後の写真だけだ。

カメラを持って風呂場の周りをうろうろする「職人」に田中が、山ちゃん何か用か

いいえ、あのう、いいえ

要領を得ない返事で戻って来た山本に早坂が言った。

田中は65歳だ、それにオヤジはスーパーデリケート、シャイなんだ。勘弁しろ。

田中の風呂は烏の行水だ。間もなく出てきて、山ちゃん、俺の裸よりも女の裸を撮れ。にんまり笑ってそういった。

不世出の異能政治家は、ギリギリの妥協点まで山荘の内部風景を山本に見せた。彼の性根を透視して、実績を確認し、信用したからである。

それにしても、あの男、よく続くな。

オヤジさんの写真集を作りたい一心でしょう。

それから2、3日してOKが出た。



旅道中にて







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