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写真屋

”上り列車の英雄” 角栄が平成五年十二月十六日に死んだ。
享年七十五歳。

その年が明けた桜の頃「田中角栄全記録(集英社刊)」 という写真集が書店の店頭に並んだ。

初版の日付は昭和六十年一月三十日。
カメラマンは山本皓一。

早坂茂三 (角栄秘書)が被写体角栄サイドの窓口になって世に送り出した懐かしい本である。早坂さんの著書にはこう書かれている。 

 



写真家山本皓一は四国高松の大きな印刷屋の長男。

大好きなカメラで身を立てようと思い立ち、家業を弟に押し付け、日大芸術科で修業し小学館のカメラマンになった。

山本が田中や早坂の前に初めて現れたのは昭和五十八年の元旦であった。


当時フリーになっていた彼は月間誌に頼まれて、東京名物になっていた”目白の正月風景”を撮りまくった。

百畳を超える大広間は年始客で溢れ、上機嫌の主人を二階堂進、金丸信、竹下登など田中軍団の重鎮が取り囲んだ。

羽田孜、小沢一郎たちが隅の方に控えていた頃である。



この後、山本が頼まれ仕事で目白にちょくちょく来るようになった。

初夏の某日、彼が思いつめた顔で「田中の写真集を作りたい」と早坂に切り出した。

山ちゃん、君は田中が下駄を履いてつまづいてひっくり返った。大あくびをした。鼻毛を抜いている。女の手を握って離さない。そんなスナップを撮りたいんだろう、違うかい。

それもあります。何とかやらせてほしい。


難しいなあ


早坂は生真面目な山本に苦笑して答えた。



大正七年生れの日本原人、角栄は、カメラの前に立つとき、明治時代の草莽の民と少しも違わない。


紺色ばかりの背広を取っ替えては着て、緊張の余り事前に小用を足し、その後便所の鏡でネクタイの結び目を確かめる。


椅子に座って両手を膝に置き、顎を引いて、まばたきを繰り返しニコリともしない。大勢の団体客と記念撮影するときも、単独の場合も同じことをする。



君がオヤジのスナップを撮りたければ、田中のすべてを世に伝えたいのならば、道は一つ、緊張の垣根を大将に取り除いてもらうことだ。


君やカメラを空気の様に感じさせることだ。

それしかない、時間がかかるよ。

わかりました。


陽焼けした三十九歳のカメラマンは翌日から目白に現れた。





仕事のあるときは別として、朝八時から判で捺したように来た。

土日は角栄のプライベートタイムである。

山本は月曜から金曜の間、親方が東京平河町の事務所に出かける午後一時頃まで、カメラを持たず、晴雨に関係なく目白に”出勤”した。



昭和六十年二月二十七日、田中は脳梗塞で倒れた。

その前日までの田中邸は土日を除く毎日、朝七時半から午後一時まで五、六百人の客がきた。玄関は靴、下駄、草履で溢れた。

昼飯と先生の挨拶、記念撮影が愉しみの団体客が百人、二百人とやってくる。

事務所のスタッフ、書生たちは五分、十分、十五分で次々に交代する来客の交通整理や昼飯の準備、跡片付けで汗だくだった。


その中に混じって山本は、玄関の履物を揃え、ジュース、コーラ、店屋物を運び、大広間の掃除を黙々と続けた。

そうした彼を角栄はチラッ、チラッと見ながら黙っていた。

そして、しばらく経ってから早坂に聞いた。


あの男は何者だ

カメラマンです。
山本皓一君といいます。

何のためにあんなことをしているんだ。

親父さんの写真集を作りたいようです。


田中がフフッと笑った。

秋風が立つ頃になって、角栄が早坂に言った。

あの写真屋に言ってやれ、仕事の邪魔をしない程度に撮っていい。

事務所の手伝いはもうしなくて結構だ。



翌日、勇んでカメラを持ってきた山本に親方が初めて声をかけた。


おい、写真屋

その次が、カメラマン

そして、山本君

しまいには、やまちゃんに変った。

同年十月十二日、東京地方裁判所の、岡田光了裁判長が、刑事被告人田中角栄に懲役四年の実刑判決をいい渡した。


秋が深まって、時の宰相、中曽根康弘が衆議院を解散。”田中判決選挙”とマスコミが呼んだ総選挙に打って出た。

投票日は十二月十八日である。


この期間、山本カメラマンは角栄に密着取材して自由にシャッターを切った。


新潟県刈羽郡西山町の田中家に”木戸御免”で出入りし、角栄や家族、早坂たちと一緒に食卓を囲んだ他所者は彼だけである。


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